あどけないはなし

2007年04月08日 01:14

大晦日の夜に、母親に山中に置き去られて凍死した子がいる。

正月のおめでたい空気の中、
そのニュースだけは淋しく胸を突いた。

ガードレールの向こう、すぐ崖下になるその場所の  
ちいさな枝に まるで洗った靴を干すように、 
死んだ子の靴が引っ掛けてある。

ちいさな女の子は言う。

チルチルとミチルの本を読んだの。  
お母さんの家に帰るために、
チルチルとミチルは小石やパンを置いたから。
わたしは 靴を置いたの。

お母さんが 道に迷ってわたしを探していてもわかるように。
お母さんは 先に降りていってわからなくなったから、
きっと わたしを探して泣いている。

ちいさな女の子は、 靴を片方脱ぐと 
ズルズルと落ちるように崖を下った。
木の枝が容赦なく 女の子の体を引っかき、 
もう引き返すことも出来なかった。

お母さんが ガードレールを越える時に言った、
「ここから山を下っていったほうが お家に近いよ」  
・・・・   その言葉を信じて。

明かりは見えなかったけど、お母さんがいる気がした。
小さな声で呼んでみた、2度、3度。
「おかあさぁん・・・」
大きな声で呼ぶと お母さんがどこかへ行きそうな 
なんだか変な気持ちで。

涙が出たけど、 血だったかもしれない。

『チルチルとミチルは・・・・・』お話を思い出しながら
小枝を思いついては折り曲げ、一足一足、山を下る。
自分の息が暖かくて 嬉しかった。   
・・・・家へ、帰れる。

靴を最初に脱いだのは いけなかったと思って、 
今度はジャンバーを脱いだ。
赤いジャンバーを 表を上にして そっと斜面に置く。
左足はなんだか濡れており、 
靴を履いている右足も 湿っぽかった。

足が痛いから もう靴は脱げない。
寒いからもう シャツは脱げない。
突然、 頭の真上の空が見えて、 
真っ暗な空に星がたくさん見えた。
(おかあさんは こないかもしれない)
ふと気がついて そう思ったら哀しくなった。

空が見える場所で 髪留めをひとつ、 
大きな枯葉を拾って上に乗せた。

お家に帰れるよね。

少し歩いて 濡れた靴下を脱いだ。 
たくさんあるいて疲れた。

たくさん転んだけど、あんまり一杯泣かなかったよ。
寒くなって。     
もういっぽの靴下を脱いだら、 
うーっ、と怒って向こうの木に投げたの。
だから寝ることにしたの。  
寒かったけど、丸くなったらおなかが温かかった。

ひざが冷たくて ゴシゴシした。
もう シャツとかしか置いていくものがないの。   
どうしよう、と思った。



お母さんは、来てくれた?

来てくれない。  違う人たちがいっぱい来た。
お花をたくさんくれてね、うれしかった。  
お菓子を持って来てくれる人もいたの。

でも、もう誰も来ないよ。
ずうっとここにいるのかな? わたし。

・・・たぶん いないと思うよ。さびしいでしょ?

わかんない。  

おばちゃんだれ?

訊ねてきた人

2007年04月08日 01:16

わたしの夢の中に ある日、 一人の女性が訪ねてきた。
ワタシの視界で物を見せ、頭の中に話しかけてくる。
何で夢の中に・・・・   
ややこしい・・・・・。
そう思って邪険にしていた。

女性は母親らしく、 開口一番
「子どもを早く見つけてください」 だった。
こども・・・・・・?
思わず 夢の中で聞き耳を立てたわたしに
彼女はワタシの目線で情報を流してくる。

戸板のような上を歩くわたし。  足元は水場だ。
もしかしたら 
池の上に突き出しているはしけ・・・のようなものかも。
杭か 立ち枯れの木かわからないものが
背の高いススキの中に乱立する。 

・・・・沼地か  荒れた池だなぁ・・・

そこで  女性は言い出した。
「子どもを見つけて出してやってください」
足元の 水がたまったような比較的浅い水面下に
スポーツバッグが沈んでいる。
夢の中でも、それを取り上げて開いてみる勇気はなく。
それほどバッグは異様な存在感があった。

夢の中の さらにイメージで  
バッグを取り上げ 濡れたチャックを開くと
中には  土色をした赤ん坊がいた。
小さい・・・・・。   
(あなたが殺したの?) と女性に問いかけるけど
女性は答えなかった。

バッグを拾うときの 水のぬるさ、 
開いたときの中の水の冷たさ。
土か皮膚か  わからないような
内容物の 視覚や手に触る感じ。
女性はもう 自分のメッセージしか言わなかった。
「子どもを早く見つけてください」
その  リフレイン。

だれかがこうしたの?
そう聞きなおすと一度だけ
「早く見つけてあげないと 小さいから溶けてしまう」 
・・・・そう言った。
女性は生きているような気がしなかった。
淋しい 沼地のような風景。
そこに女性の影はなく、イメージだけが飛んでくる。 
どうして母子が離れているのだろう?と 漫然と思った。
風の中に沈んでいるバッグが見えるが
水は冷たくなって  二度ととることはできなかった。

もう 女性の気配は消えた・・と夢の中で確認した後、
見知らぬ人が 夢の中に訪ねてくるのは初めてだったと
そのとき気づいた。
彼女は他の人にも「子どもの捜索」を頼んでるんだろうか?

しばらくしてから  母子と思われる二人が 
離れたところからみつかったらしい。
S子さん。   やはり亡くなっていた人だった。
縁もゆかりもないわたしに何度も 語りかけてきた人。
「子どもを早く見つけてください。
 小さいから 溶けてなくなってしまう・・・」
自分の子どもの骨が崩れていくのを
見ていられなかったんだよね。

見つかった赤ちゃんの骨は
それは小さく崩れ   ようやく 
捜査員の手に掬い取られるほどだったそうだ。
わたしがもっと違う世界の人だったら
大声出して 助けられたかもしれないけど、
ごめんね、   普通に生きているから
助けてあげられなかった。

もう女性は訪ねてこない。 

生きている人 死んでいる人

2007年04月08日 01:42

おはなしを二つ。


ひとつめは、衣装ケースに入れられて育つ赤ん坊の話。
ちいさな男の子らしいけど、
ひどく痩せていて赤ん坊にしか見えない。
目とこけた頬が体の割りに年老いて見えて、 
・・・たぶん赤ん坊(乳児)というより幼児なのかもしれない。
蓋付きの透明なアクリルの衣装ケースに入っているが、
泣くと途端に傍らの女性が蓋を閉じてしまう。    
子どもを入れたまま。
動物のような泣き声は「きーきー」とケースの中で小さく響き
言葉をなしていない。
暑く苦しく排泄物のような臭いを感じる。  
上から覆われるものは アクリルの蓋だけではなく
時には毛布、 時には何かを入れていたダンボール。
小さな子は『ソレ』が何という名前の物体なのか知らなくても
見ている瞳が写すものを わたしに見せて教えてくれるようだ。

その子は今も どこかで生きている。
その子を探し出す術を わたしが知らないだけで。
言葉は知らないだろうけど たぶん  
助けて と言ってる。
・・・もっとも コレも夢なのか。


もうひとつの話。  

駐車場に車を乗り付ける中年女性。
助手席の男性に声を掛ける。 
女性は襲われる。
不思議なのは、最初に助手席の男性が(車中から)
襲った・・・と感じたのに
駐車場にいた男性が 
運転席からまさに降りようとした女性を襲う情景が
しばらくして浮かんだこと。

外側から襲うのも男性、車中で襲うのも男性。
だけど顔は不思議と違う気がする。
外側にいるのは    見知らぬオトコ
車中にいるのは    女性の顔見知り。

矛盾している。
     誰?
いつものように情景を見せるダレカに聞くけど
ヒトリ、 ヒトリ・・・としか応えてくれない。
わかっているのは女性が死んだこと。

砂漠の国はいつも戦争をしてばかり。

2008年06月19日 04:28

遠い遠い昔、砂漠を減らし・癒すという暮らしの知恵を持った人々を、隣の国の人々は土地欲しさ、モノ欲しさで殺してしまった。
 
人を殺したとき、知恵も死んでしまった。
知恵が死ねば土地は残っても、砂漠は癒されない。モノは殺人者たちの手に渡り、育てた木々や生きものは、山を越えて違う国へ貢がれた。
残された木々や生きものは違う国の風になじめなかった。
知恵は死んでいた。木々や生き物はあとを追った。

殺人者たちは困った。
彼らにも家族があった。町のくらしがあった。生きていた。
<欲>という種が その表面に芽吹いた知恵の実を、ほんの少し齧っただけなのに。

  サツジンシャ。

最初に砂漠の国を平らげた人々は小さきものから順に滅びていった。

  ワレラハ サツジンシャ、ナノカ?

誰が悪いと言うの?より好く生きたいと思っているだけなのに。

少女は戦いに巻き込まれて土気色にかわった弟を抱きながら天を呪った。
生きていたい。この場所はわたしのふるさと。どこで生きるのかが大事なんかじゃない。ここでどうやって生きるかを求める。
ここはわたしの生まれた場所。先祖の眠る場所。弟も眠り、いつかわたしも眠る場所。

求めよ! 土地を、モノを、奪うべきものの知恵を。そして命を!

少女に促され大人も従った。
少女は我等の未来の象徴。我等のまだ到達しないところへ行き着くであろう希望。
讃えよ。満たせ。我等は奪うものではない、より好く生きようとするしなやかで強靭な知恵だ。
取り返すのだ、なくしたもの全て。
抗うものを焼き払い全てを我等の糧にせよ。すなわちこれ、聖戦なり……
奪うものと奪われるものは、諍いから降りようとしない。

砂漠の国はいつも戦争をしてばかり。より好く生きたいと思っているだけなのに。

『わたしの未来よ、さあお飛び。どこまでも飛んでおくれ。わたしの未だ見なかった世界へ。
どこで生きるかを尊ぶ人間になることより、おまえの居場所でどう生きていくかを尊ぶ人間になっておくれ。』
すなわちこれ、聖戦なり……

ひとはいつも戦争をしてばかり。だれもがより好く生きたいと思っているだけなのに。

白昼夢

2008年12月29日 05:05

目が覚めていながら、覚めない夢をみた。

二時間の残業を終えて夜八時前、閉店間際のスーパー。彼女は床を滑るように忙しく売り場を巡っていた。彼女の姿を目に留めて、ぎくりとして足が止まるわたし。
髪がほつれて疲れて見える横顔。焦っているのか喜んでいるのか、紅潮した頬。
野菜売り場をひと巡り、冷凍食品のケースで立ち止まる。お正月の音楽が店内に流れる。
 もう幾つ寝ると…

眠ってるはずなのに、心がこんなところにきてるのね。
家のことが気になるんだろうな。今夜も残業して、疲れて帰る毎日を、夢の中まで変わらず送っているんだね。



涙がほろりと出た。
閉店前の人波の中でその涙は止まらなかった。
わたしも夢をみているのかもしれない、と、泣くことしかできなかった。