恐怖〜6〜

2007年10月17日 22:54

それは足もとで蠢く人たちの顔が、一瞬サリナム自身の顔に見えたからでした。
サリナムは何かの見間違いだろうと目を凝らして下を見やりました。
最初、蟻のように小さく粗末に見えた姿は段々と地獄の沼から上がってまいります。
蟻の小ささが羽虫ほど大きくなったとき、
ようやくサリナムは辛抱していたため息を漏らしました。
どうやらサリナムの見間違いだったようでございます。

赤い泥か血糊なのか、やたらに赤銅色して目だけをぎょろぎょろさせている罪人達の
どの顔を見てもサリナムと似た顔はなかったのです。
・・・似た顔さえない。 
同じようないでたちをしながら、
自分に似た顔の一つも群衆の中に見つけられないことに
たとえようのない不安を覚え、サリナムはぞくっと鳥肌を立てました。

こうしてはいられないとばかりに右手の糸を緩め、
再び上に向かって登り始めようとしたときのことです。
ふと足もとのほうから聞いたような声がして、サリナムは下を見ました。
するとそこには、先ほど見間違いだと否定したばかりの自分の顔が
ぽっかりと罪人の顔の中に浮かび、必死に助けを求めているのです。
喉が渇き、ふた息もする隙にのど骨に粘膜が張り付きそうになりました。
あんなヤツを助け上げればもとから細い蜘蛛の糸のことだ、すぐに切れてしまう。
自分と同じ顔の罪人を見つつ見殺しにすることを考えました。
あんなヤツを助ければ、下から登ってくるヤツらを全員助けなければならなくなる。

働いていた店先で来る人全てに愛想を振りまいていたサリナムの
その当時の暗い本心が湧いてきました。
(油断をするな。いくら似ていてもアレは俺じゃない。)
(お人よしの心は人を助けはしても俺を助けてくれない。もう騙されるな)

いまこの瞬間に、
サリナムははじめて地獄の底の血まみれた沼に落とされた恐怖を感じました。
恐怖と言う感情をどこかに落として生まれてきたのだ、と
サリナム自身は生きているあいだ、ずっと思い続けていたのです。
恐怖がないからこそ他人に優しい顔ができる、優しい声が出せる。
そうしてその裏で自分の欲望を思うさまむさぼることができる。




コメント

  1. たかし180 | URL | oYabFkKc

    らっきー♪165

    おぱーいいぱーいもんだら5まんげとww三十路フリー田にはおいしすぎるんだけどwww
    http://natuiro.net/on/175

  2. きむろみ | URL | -

    返信

    壊れゆくものと知っても愛おしき コトノハ死して紅く散り染む

    だれの言葉もいつかは死に絶え、その姿さえ紅く美しいのだと思いたいです。
    わたしの言葉は美しいですか?
    あなたの言葉は?

  3. vallto3 | URL | 5LCYjco2

    僕も「紅く」…と、赤と紅を使い分けています。
    記事をアップしてからこちらに来て、我が意を得たりと思いました^^

  4. | |

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  5. きむろみ | URL | w5curNNk

    いらっしゃいませ

    >vallto3さん
    美しい紅葉拝見しました。そうなんです、A○って画像チカラ入れてない気がします。・・・っていうか画素数足らないのかしら?(あくまで撮影者の技術は問わずw)
    >鍵さま
    コメントありがとうございました。拙いながらも一句詠みましたが、まじないが幾重にかけてありますのでお触れにならないでくださいましe-277

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