2008年09月08日 23:59
弟が引っ越すから要らなくなったテレビを送るという。電話を受けた夫は二つ返事でいると言ったらしい。
とかく身内からなにか持ってくるといわれて断ったことがない。ウチに要らないものもやって来るけど、(その比率は段々多くなってきているけど)それは付き合いだからしょうがないのだと諦めていた。
諦めながら、趣味に合わない大型の家具や衣服が運び込まれたりすることにつくづく閉口していた。
夕方、電話が来る。わたしは「要らないよ」と言った。
我が家のテレビは確かに古いけれど、差し替えてそれを処分するのも一苦労だし。なにより弟がこれまで実家にもってきた家具や車は、すぐに修理が必要になる、どこをどう押しても中古品だったからね。
現実主義者の姉は冷たかったんだ。うん。
夜になってまた電話が来る。今度はゴルフバッグだという。
ゴルフはしないから、というと「これから接待もあるだろうから」と引き下がらない。
「身内以外に渡すことになるから、それなら身内にやったほうが……」と良かれ良かれで電話口が笑っている。実家には音量が大きいので小さくしてと頼んでいたはずなのに、電話口の声は相変わらず大きい。――家族の血統で声が大きいのかな?
あまりにゴルフゴルフとうるさいので、きーっとなった。
「そんなにウチのダンナにゴルフがさせたいのか?いらないものは要らない!」
……すると、ちょっとは弁が立つらしい弟がわたしを論破しようと声を張り上げ始めた。声を張るのは感情的じゃん。わたしがついさっきやったことを、どうして繰り返してることに気づかないのかな。
「あなたは精神的に病んでいる」「そのものの言い方はおかしい」
「いいましたよね?いってませんか?いいましたよね、事実ですね、認めなさい」
その繰り返し。論破ではなくもう、ヒステリーだ。
こちらのほうが引いてしまって、「親に代わってください、第三者を入れよう」というと「嫌だ」と言う。
親を入れてもまるで建設的にならないのはわかっていたが、冷静になってもらいたかった。それほど弟はおかしかったと思う。
その弟がわたしのことを「精神的に病んでいる」と言う。
「きょうだいだから全部言い合おう」と言う。自分の病気のことは一切触れないくせに。
やり取りの間にも大声で「認めなさい、言ったでしょう」とそればかりを続ける。まるで建設的ではない。何か別なことを言おうとしても一辺倒なので疲れた。
しばらく受話器を放していた。うるさかった。
電話の向こうで気づいたらしく「電話を切るつもりですか、切るのですか」と言っている。
切ったらどうなるのだ?縁でも切るというのか、切れてしまうと嘆いているのか、どっちだ?
弟は仕事を辞めるらしい。或いはもう辞めたのか。
体の具合も悪いのだろう。透析はまだせずに済んでいるのか。心は、心を病んでいるらしいという親からの伝え聞きを、わたしはいつまで知らぬフリでいればいいのだ。
親も、兄弟もそしてわたしも、家族の誰もが自分の秘密を語ろうとしない。
わたしの家族の本質はバラバラなのだ。両親が自分の出生や、周りに認めてもらおうと必死だったこと……それらに奔走している間、子どもだったわたし達兄弟は孤独だった。
放置され、気まぐれに束縛され、愛情の両極端を行ったりきたりして育った。だから、みんなバラバラ。
わたしが病んでいると言われても動じない。病んでいるのだろう。弟どころか両親も知らないが、体も病んでいるんだ、わざわざ誇張しなくてもいいよ。
病んでることを指摘して怯えさせたいのか、とか思ったら父に似ているなぁと思った。
子どもを押さえつけるために、いつも「お前はおかしい」「言うばかりで行動しない人間だ」と罵っていた。口答えは許さずいつも大声で人を圧そうとしていた。その父は脳梗塞で、段々言葉も怪しくなっている。
父に似ている――そう言ったら、弟は激怒するんだろうな。
昔の父を思い出し、投げやりに答えているとますますヒートアップしてきたので電話を切る。
最後は「お父さん(夫)に電話を代わってもいいよ、イヤ、代われ!電話に出せ!」と叫んでいた。
夫が二つ返事で安受けあいした上に、病んでる姉のわたしが「要らない」ということでこんなことになった。身内だから何でも貰いものは受けなくちゃならないシステムが、ちっとも愚かなわたしにはわからない。
要らないのに。どうして要ると言わなくちゃ好(よし)としてくれないんだろう。
弟は電話口で「(テレビを)二日掛かりで妹と運んだ」とか話していた。リモコンは忘れたと言う。……県外に置忘れか。
テレビの件で納得もいかなかったらしい。ゴルフバッグはもっと意味不明だ。
ゴルフをしないと言うのに、なぜ身内だから、将来やるかもしれないから、と今要らないものをもらわなくちゃならないのか。
わたしにはわからない。病んでいるのだろう。トホホだ。とほほ。
電話が鳴る。夜分遅くの時間に、だ。
電話口は叫んでいる「お父さんに代わってください」。今度は安受けあいした夫に謝罪をさせたいのか。
どっちが正しいんだろうな、と思いつつ受話器を上げて切りなおす。また掛って来る。切りなおす。
ふと思いついてプラグを抜く。シーンとなる。
弟よ。元気にしてるのか、君は。
腎臓をあげられなくなったよ、ごめんね。家族の中で血液型が合うのはわたしだけなのにね。移植の可能性を低くして申し訳ない。
君が病んでいるようにわたしもどこか病んでるのだ。君はそれをわたしに言ってくれないけれど。
わたし達は孤独だね。お互いの病を打ち明けることはないのだろうね。
気遣いあっているつもりでも、傷つけあっているのだね。
せめて電話が来るのが今日じゃなければな、とか、言うのは言い訳かい?
姉は孤独だ。そうだよ、病んでいるのだ。君は正しいよ。
とかく身内からなにか持ってくるといわれて断ったことがない。ウチに要らないものもやって来るけど、(その比率は段々多くなってきているけど)それは付き合いだからしょうがないのだと諦めていた。
諦めながら、趣味に合わない大型の家具や衣服が運び込まれたりすることにつくづく閉口していた。
夕方、電話が来る。わたしは「要らないよ」と言った。
我が家のテレビは確かに古いけれど、差し替えてそれを処分するのも一苦労だし。なにより弟がこれまで実家にもってきた家具や車は、すぐに修理が必要になる、どこをどう押しても中古品だったからね。
現実主義者の姉は冷たかったんだ。うん。
夜になってまた電話が来る。今度はゴルフバッグだという。
ゴルフはしないから、というと「これから接待もあるだろうから」と引き下がらない。
「身内以外に渡すことになるから、それなら身内にやったほうが……」と良かれ良かれで電話口が笑っている。実家には音量が大きいので小さくしてと頼んでいたはずなのに、電話口の声は相変わらず大きい。――家族の血統で声が大きいのかな?
あまりにゴルフゴルフとうるさいので、きーっとなった。
「そんなにウチのダンナにゴルフがさせたいのか?いらないものは要らない!」
……すると、ちょっとは弁が立つらしい弟がわたしを論破しようと声を張り上げ始めた。声を張るのは感情的じゃん。わたしがついさっきやったことを、どうして繰り返してることに気づかないのかな。
「あなたは精神的に病んでいる」「そのものの言い方はおかしい」
「いいましたよね?いってませんか?いいましたよね、事実ですね、認めなさい」
その繰り返し。論破ではなくもう、ヒステリーだ。
こちらのほうが引いてしまって、「親に代わってください、第三者を入れよう」というと「嫌だ」と言う。
親を入れてもまるで建設的にならないのはわかっていたが、冷静になってもらいたかった。それほど弟はおかしかったと思う。
その弟がわたしのことを「精神的に病んでいる」と言う。
「きょうだいだから全部言い合おう」と言う。自分の病気のことは一切触れないくせに。
やり取りの間にも大声で「認めなさい、言ったでしょう」とそればかりを続ける。まるで建設的ではない。何か別なことを言おうとしても一辺倒なので疲れた。
しばらく受話器を放していた。うるさかった。
電話の向こうで気づいたらしく「電話を切るつもりですか、切るのですか」と言っている。
切ったらどうなるのだ?縁でも切るというのか、切れてしまうと嘆いているのか、どっちだ?
弟は仕事を辞めるらしい。或いはもう辞めたのか。
体の具合も悪いのだろう。透析はまだせずに済んでいるのか。心は、心を病んでいるらしいという親からの伝え聞きを、わたしはいつまで知らぬフリでいればいいのだ。
親も、兄弟もそしてわたしも、家族の誰もが自分の秘密を語ろうとしない。
わたしの家族の本質はバラバラなのだ。両親が自分の出生や、周りに認めてもらおうと必死だったこと……それらに奔走している間、子どもだったわたし達兄弟は孤独だった。
放置され、気まぐれに束縛され、愛情の両極端を行ったりきたりして育った。だから、みんなバラバラ。
わたしが病んでいると言われても動じない。病んでいるのだろう。弟どころか両親も知らないが、体も病んでいるんだ、わざわざ誇張しなくてもいいよ。
病んでることを指摘して怯えさせたいのか、とか思ったら父に似ているなぁと思った。
子どもを押さえつけるために、いつも「お前はおかしい」「言うばかりで行動しない人間だ」と罵っていた。口答えは許さずいつも大声で人を圧そうとしていた。その父は脳梗塞で、段々言葉も怪しくなっている。
父に似ている――そう言ったら、弟は激怒するんだろうな。
昔の父を思い出し、投げやりに答えているとますますヒートアップしてきたので電話を切る。
最後は「お父さん(夫)に電話を代わってもいいよ、イヤ、代われ!電話に出せ!」と叫んでいた。
夫が二つ返事で安受けあいした上に、病んでる姉のわたしが「要らない」ということでこんなことになった。身内だから何でも貰いものは受けなくちゃならないシステムが、ちっとも愚かなわたしにはわからない。
要らないのに。どうして要ると言わなくちゃ好(よし)としてくれないんだろう。
弟は電話口で「(テレビを)二日掛かりで妹と運んだ」とか話していた。リモコンは忘れたと言う。……県外に置忘れか。
テレビの件で納得もいかなかったらしい。ゴルフバッグはもっと意味不明だ。
ゴルフをしないと言うのに、なぜ身内だから、将来やるかもしれないから、と今要らないものをもらわなくちゃならないのか。
わたしにはわからない。病んでいるのだろう。トホホだ。とほほ。
電話が鳴る。夜分遅くの時間に、だ。
電話口は叫んでいる「お父さんに代わってください」。今度は安受けあいした夫に謝罪をさせたいのか。
どっちが正しいんだろうな、と思いつつ受話器を上げて切りなおす。また掛って来る。切りなおす。
ふと思いついてプラグを抜く。シーンとなる。
弟よ。元気にしてるのか、君は。
腎臓をあげられなくなったよ、ごめんね。家族の中で血液型が合うのはわたしだけなのにね。移植の可能性を低くして申し訳ない。
君が病んでいるようにわたしもどこか病んでるのだ。君はそれをわたしに言ってくれないけれど。
わたし達は孤独だね。お互いの病を打ち明けることはないのだろうね。
気遣いあっているつもりでも、傷つけあっているのだね。
せめて電話が来るのが今日じゃなければな、とか、言うのは言い訳かい?
姉は孤独だ。そうだよ、病んでいるのだ。君は正しいよ。



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